[book review] Advanced Techniques in Applied Mathematics

こういうタイトルの本を頂きました。読む時間がなかなか取れなくて申し訳ないなぁと思いながら数週間経ったんですが、先ほど、なんとかModelingの章の1/4くらいだけ読んでみました。

この本ではチャプターごとに著者が違い、私が興味を抱いていたこのModeling (第三章)は、Oliver S. Kerr著となっています。Modelingとは何かと言えば、

(多くの場合自然)現象を数式で表現(ほとんどの場合近似)すること

と私は最初思っていて、本を見ると(最も基礎的な現象に対しては)大体著者の認識と合ってるようです。この場合Modelingによってできた数式をModelと呼びます。Modelingの章では、数式に落とし込む前段階の処理のテクニックを教えてくれています。

ちなみに小学校で習う d = vt (距離 = 速度×時間) はモデルなんでしょうか。恐らくモデルだと思いますが、なんか違う気もする。モデルの定義って難しくないですかね。

そんな心の声が著者に聞こえたのかというくらい的確に、最早モデルはこうあってはいけない例を出してきます。その名も「Beer Goggles」。

Beer Goggles Model

この例では、「煙草をくゆらせながら薄暗いパブでビールを飲む」という、日本人的にピンと来るのか?分かりませんが、ともかくやる人がやれば「恰好良いっぽい」情景を想定します。

Beer Goggles Modelは、煙、暗さ、飲んだアルコール量、こういったものをパラメタとして、対象が如何に恰好良く見えるかを測る数式:

    \[\beta = \frac{(A_n)^2\times \delta(S+1)}{\sqrt{L}\times (V_0)^2},\]

で表されます(これに詳しく触れるつもりがないのでパラメタの説明は割愛します。興味のある方はBeer Gogglesで検索してみてください)。参考までに、これがなぜ良くないModelかと言うと、Oliverは次のように書きます:

・dimensionally inconsistent.
・does not seem to based on any rational model.
・does not seem to based on any quantitative observations.
・no indication what a score of.

S. Bullett, p.72

重要なのは、Modelは現象をそれっぽく見せるだけでは駄目で、Model足りうる評価基準があるということ。いわんや一般の方を信じ込ませて優位に立つ道具に使おうとしてはいけないぞ!みたいな。少し著者の言わんとすることが分かりました。

Fundamentals

いよいよModelingの準備ということで、パラメタの扱いについて説明があります。

  • Continuum Hypothesisは、関数の変量と値の連続性を仮定してはいけない、とあるcusplike構造に関するModelの例を挙げてます。1/4を読んだ時点では出てきてませんが、パラメタが離散値を取りうるモデルはどうなるんでしょう。
  • Buckingham’s Theoremは、Modelにおける式のパラメタを減らすテクニックで、特に重要と思われるので引用しておきます:

Buckingham’s Theorem

Suppose a model of a system has n physical quantities q_1,\ldots,q_n and a problem (that describes the relation of these quantities) arises as a mathematical equation:

    \[f(q_1,\ldots,q_n)=0.\]


Furthermore, if these n quantities are expressed in terms of k basic physical units then we can re-express the problem as:

    \[F(\pi_1,\ldots,\pi_p)=0,\]


where p=n-k and the quantities \pi_i are dimensionless.

この定理を見たとき思ったのですが、陰関数定理にちょっと似てませんか?(数学をかじってる方)

実際のところ、Buckingham’s Theoremの証明を見ると、本質的なモチーフ ― すなわち、

方程式系とそれをある制限された領域で支配するn変数系が与えられた時、(然るべき意味において)独立したk変数系 (k\leq n)があれば、元の方程式系はある領域において、(n-k)変数系で支配される

という主張としては同様のものです(もちろん仮定されている変数 (quantities) の取りうる値や関数の条件、コドメインの次元が違うので適用はできませんが)。

Buckingham’s Theoremの応用例

雰囲気をつかんでみるために、Buckingham’s Theoremを応用して距離 (d), 時間 (t), 速さ (v) の3単位 (変数)に支配された方程式f(d,t,v)=0について、dimensionless quantityを求めてみましょう。

良く知られた単位の間の関係から、方程式はf(d,t,d/t)=0と表せます。つまり2つの基本単位d,tで表されます。単位同士には乗法が定義されていると見做し、乗法を加法で置き換えることで、変数とその間の関係を、基本単位を基底とする行列で表現します。すなわち:

    \[\begin{pmatrix}d & t & d/t\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}d & t\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1 & 0 & 1 \\0 & 1 & -1\end{pmatrix}\]

右端の行列をM=\begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & -1 \end{pmatrix}とおくと、線形変換として、

    \[{\rm Ker}M=\{ \begin{pmatrix} -x \\ x \\ x \end{pmatrix} : x\in \mathbb{Z}\}\]



故に(定義により)dimensionless quantityは、\pi^x=(tv/d)^x \quad (x\in \mathbb{Z})で得られます。実際

    \[\begin{array}{ll}{\rm dim}\pi^x &= x\cdot {\rm dim}\pi \\&= x({\rm dim}t+{\rm dim}v-{\rm dim}d) \\&= x(1+0-1) \\&= 0\]



を満たし、Buckingham’s Theoremによれば、

    \[F(\pi)=0\]

を満たす関係方程式Fがあります。