先日用事があって松本に出かけた帰り、いつも行く書店に寄ったんです。まぁまぁ忙しい日が続いていて、ちょっと立ち止まって考えたいという気になっていたので、特に買うものもなくフラリと。
そこは専門書も扱っていてカフェも併設されてるので、調べものをしたり思索していると数時間は平気で過ぎて行くような、松本でも数少ない特別な場所です。
専門書エリアを後にして少し見回っていると、普段は目に留まらない (記憶が曖昧ですが)「モダン文学」と書かれたエリアに吸い込まれるように立ち寄っていました。この時の感情は説明が付かないけれど、今考えると私にはそれが必要だったようです。
少し入ったところの棚にある本の表紙に「月とコーヒー」とあって、『どちらもあると嬉しいもの』と思って手に取ると、初めて見る作家[1]吉田篤弘 (あつひろ)。後で調べると人気作家でした。の本に、センスのある心地良い文章に、一瞬、いや、随分と長い時間を忘れました。
この時間というのは、たっぷり余裕を持って自身との対話を促してくれるような、心地よくて優しい空想に耽る時間で、アドレナリンで駆り立てるような集中で以て忘れるものとも違うのです。
私は、勿論作家の性質や力量に依るものはさることながら、このような文学作品が持つ独特の力を昔から何となく知っているのです。
生きていて、時間を忘れさせてくれる以上に尊い事はあるだろうか。
モノや情報がどれだけ溢れ返っていても、気に留める心を失っていては何も無いのと同じではないか。
そのような事を私は幾度となく忘れ、そして思い出す時にはいつも、そこに本があったような気がします。
Footnotes
↑1 | 吉田篤弘 (あつひろ)。後で調べると人気作家でした。 |
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