可換環3

写像の文脈では, 著者によって「写す」と「移す」という異なる表記があるらしい. 前者はmapの和訳通り, 「ある集合の元をある集合の唯一つの元に移すもの」, つまり「写像主体」になっていることを強調する表現で, 後者は元そのものが移動する, あるいは移動させるというニュアンスから, 元の集合(domain)と行き先の集合(codomain)に初めから何らかの関係があり, その関係を記述するものが写像である, という「集合主体」の表現であると解釈できなくもない.

最近順系の普遍性がよく分かってきた. その経緯で関連した命題を記しておく.

命題2.8.2: Bが平坦A-代数でかつNが平坦B-加群ならば, NはA-加群として平坦である.
証明: A加群の完全列0\rightarrow Q_1\rightarrow Q_2をとる. このときBは平坦A加群として関手T_B(Q_i)=Q_i\otimes_A Bで写される完全列

    \[0 \rightarrow Q_1\otimes_A B\rightarrow Q_2\otimes_A B\]

を引き起こす(右完全性は左随伴関手としてのT_Bの性質により従う). Q_i \otimes_A Bは写像(b,q\otimes y)\mapsto q\otimes by\ (b,\ y\in B,\ \ q\in Q_i)によりB-加群と見れる. このとき平坦B-加群Nの性質から関手T'_{Q_i\otimes_A B}でB-加群としての完全列

    \[0 \rightarrow Q_1\otimes_A (B \otimes_B N) \rightarrow Q_2\otimes_A (B \otimes_B N)\]

が誘導される. 同型Q_1\otimes_A (B \otimes_B N)\cong Q_1\otimes_A NによってNのA-平坦性が出る((A,B)-複加群としてのNの性質から, 自然な同型Q_1\otimes_A (B \otimes_B N) \cong (Q_1\otimes_A B) \otimes_B Nを使っている) ■

命題2.10: Aを可換環, aをAのイデアルでa\subset rad(A)を満たすものとする(rad(A)はAのJacobson根基). MをA-加群, Nを有限生成A-加群とし, u:M\rightarrow NをA-凖同型写像とする. このとき誘導された凖同型M/aM\rightarrow N/aNが全射ならuも全射である.
証明: NのA上の生成元を\nu_1,\ldots,\nu_nとする. \mu:M/aM\rightarrow N/aNが全射であれば, 各生成元\nu_iに対し, Mの元で, \nu_iN/aNにおける像に写すようなm_i\in Mが少なくとも一つ存在する. 正確には\mu(M)\subseteq Nより\mu(m_i+aM)=\mu(m_i)+a\mu(M)\subseteq \nu_i+aN.

そこで

    \[\begin{array}{lcl} \mu(m_i)&=& \nu_i + \sum_j c_{ij}\nu_j \\ &=& \sum_j (\delta_{ij} + c_{ij})\nu_j \\ &=&(c_{i1},\ldots,c_{ii}+1,\ldots,c_{in}) {}^t(\nu_1,\ldots,\nu_n) \end{array}\]

より, {}^t (\mu(m_1),\ldots,\mu(m_n))={\bf \omega},\ {}^t(\nu_1,\ldots,\nu_n)=\nuと書くことにすれば,

    \[{\bf \omega} = \overline{C} \nu\ \cdots \ (e)\]

とかける. ここで\overline{C}は行列C=(c_{ij})に対し\overline{C}=C+Eで定義されるNの自己凖同型環{\rm End}_A(N)上の行列と見る.
\overline{C}の行列式dは\det{(C+E)}=(-1)^n\det{((-E)-C)}から分かるように, Cの特性方程式に-1を代入したものを(-1)^n倍したもので, \det{\overline{C}}=d=1+r\ (r\in a)の形である. \overline{C}の余因子行列(b_{ji})を(e)の両辺にかけると, d \nu_i=(1+r)\nu_i=\sum_i b_{ij}\mu(m_i)を得る. b_{ij}\overline{C}の要素の(n-1)次多項式であるから勿論Aの元. r\in rad(A)であるから1+r\in A^\timesで,

    \[\nu_i = d^{-1}\sum_i b_{ij}\mu(m_i)\]

がMからNへの全射を与えている ■

命題13. f:A\rightarrow Bを環凖同型, NをB加群. ay=f(a)y\ (a\in A,\ y\in N)によってNをA-加群とみてB-加群N_B=B\otimes_A Nをつくる. このときyを1\otimes yに写す凖同型写像g:N\rightarrow N_Bは単射であること, またg(N)はN_Bの直和因子であることを示せ.
証明. gの単射性: gはA加群の凖同型であるから, g(y)=0\Rightarrow y=0を言えば良い. 実際1\otimes y=0なら単元a\in Aが存在してay=0より直ちにy=0. なお, ここで単元の存在を言うのは, 0でないyに対してyを零化するAの元の存在を否定できないから. 単元がそのような元である心配はない.
また, p:N_B\rightarrow N; p(b\otimes y)=byは明らかに全射である.

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このB-加群の列は完全で, pの右逆凖同型, つまりpの分解B-凖同型としてgをとれる. 実際

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p\circ g=Id_Nである. 故にN_Bは分裂し, N_B\cong Im(\nu)\oplus Im(g)\cong Ker(p)\oplus Im(g) ■

命題. 有向集合Iを固定し, この上のA-加群の順系{\bf M}=(M_i,\mu_{ij}),\ {\bf N}=(N_i, \nu_{ij})を考える. 各順系の順極限をM=\lim_\rightarrow M_i,\ N=\lim_\rightarrow N_i, 対応する準同型を\mu_i:M_i\rightarrow M,\ \nu_i:N_i\rightarrow Nとする.

準同型\psi_i:M_i\rightarrow N_iが図式

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を可換にするとき, 図式(*)

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を可換にする準同型\psi:M\rightarrow Nが一意的に定義される.

証明. 示すべきことは次の三つである.

(i) \psiが写像としてwell-definedであること
(ii) \psiが存在すること(手順を与えて構成できる)
(iii) (*)を可換にするような写像として, \psiが一意的であること

(i)は(ii), (iii)を示せば明らかであるから, (ii)をまず示す.
加群の直和\bigoplus M_i=C,\ \bigoplus N_i=Dに対し, 写像

    \[\psi':C\rightarrow D\]

は任意のx_i\in M_i\psi_iN_iに写す写像として自然に定義され, \psi'|_{M_i}=\psi_iである. これは明らかにA-加群の性質を保存する.

このとき(*)の可換性を使えば, 図式

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を可換にする\psiとして定義できる.

具体的にはi\leq j\ (i,\ j\in I)に対しx=\sum_{i\in J_1} x_i \in C,\ z=\sum_{i\in J_2} z_i-\mu_{ij}(z_i)をとり, 次の等式を得る(J_q\ (q=1,2)はIの部分集合).

    \[\begin{array}{lcl} (\nu\circ \psi')(x+y) &=& \nu\Big( \sum_{i\in J_1} \psi_i(x_i)+ \sum_{i\in J_2} \psi_i(z_i)-(\psi_j\circ \mu_{ij})(z_i) \Big) \\ &=& \nu\Big ( \sum_{i\in J_1} \psi_i(x_i)+ \sum_{i\in J_2} \psi_i(z_i)-(\nu_{ij}\circ \psi_i)(z_i) \Big) \\ &=& \sum_{i\in J_1} (\nu_i\circ \psi_i)(x_i)\ \ldots \ (*2) \end{array}\]

    \[\begin{array}{lcl} (\psi\circ \mu)(x+y) &=& \psi\Big( \sum_{i\in J_1} \mu_i(x_i) \Big) \\ &=& \sum_{i\in J_1} (\psi\circ \mu_i)(x_i)\ \ldots \ (*3) \end{array}\]

(*2)=(*3)のとき, \psi\circ \mu_i=\nu_i\circ \psi_iを満たす準同型\psi

    \[\psi(x)=\nu(\psi_i(x_i))\]

と定義できる. 但しこのx_iは, \mu_i(x_i)=x\in Mを満たすようなi\in I,\ x_i\in M_iが必ず存在するので, そのようなもので任意の一つを取る. 二つの異なる有向集合の元i\neq j\mu_i(x_i)=\mu_j(x_j)=xを満たすものに対し, (*2)=(*3)によって値\psi(x)は一意的に定まることがわかる. これで(ii), (iii)が示された. ■

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