円の接線の公式を, 高校数学で分かるように説明しようという目的で書いた (*1).
円M: g(x,y)=(x-a)^2+(y-b)^2-r^2=0 についての説明をしたかったので, ここではそれを考えれば十分だと思う. 上の形式的表示によれば
となる.
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具体的な目標として, 次の命題を設けよう.
【命題】
g(x,y)=(x-a)^2+(y-b)^2-r^2=0 で規定される円M上の点p=(x_1, y_1)における接線は, L: xx_1 + yy_1 = r^2 で与えられる.
これを説明するとき, 自分の知っている限りでは二つのアプローチがある(と, 後になって思った).
一つはベクトル方程式による媒介変数を使うもの, もう一つは多様体とその上での微分から接超平面ベクトル空間を考える方法. 後者は一般化が図れるけれども難しい.
なので前者で話を進める.
ストーリーはこういう感じでいこうと思う.
①我々が通常「関数」と言っているものは, (2次元)座標平面においては「xひとつに対してyが一つ定まる」ものであることを知ってもらう(y^2=x等は, x=1に対してy=±1と, 二つの値をとり得る!従ってこれは関数ではない).
②ちなみに, 円は「関数」ではない.
③「関数」にならないものであっても, 定義域の範囲を狭めれば関数にできる(こうして与えた「関数」で, さらに条件をうまく加えると(*2)性質のいい陽関数表示と呼ばれるものを得る. その陽関数表示φによれば, Mがy=φ(x)で表せる(しかもφ'(x)≠0)).
④起点p=(x_1, y_1), 方向ベクトルe=(e_1, e_2)で, Mのpにおける接線が, t∈をパラメタとして
c(t)=p+te
と表せる.
eはy=φ(x)で与えられる曲線のpにおける接線の傾きをベクトル表示したもの(*3)であって,
e=(1, φ'(x_1))
となるから,
c(t)=(x_1 + t, y_1 + tφ'(x_1)) = (x, y)
tを消すのにxにφ'(x_1)を掛けて辺々引いて,
φ'(x_1)x – y = φ'(x_1)x_1 – y_1.
∴y – y_1 = φ'(x_1)(x – x_1) ・・・ (1.1)
ここまで陽表示φ(x)の具体的な形が出てきていないのは, (1.1)の表示をベクトル式表示から導きたかったから.
ここで初めてφ(x)=[r^2-(x-a)^2]^(1/2)+b
というMに関する具体的な陽関数表示を与えなくてはいけない.
この表示によれば
φ'(x)=-x/y
となるのでもちろん
φ'(x_1)=-x_1/y_1 (陽関数の定義によってφ’=0となる点は除外されているので定義される)
改めて(1.1)にこれを代入して整理すると,
yy_1+xx_1=x_1^2+y_1^2=r^2 (*4)
となる.
(注釈)——————————–
(*1) 正確にはg(x,y)=0で表される内のC^1級曲線Mの, 点p=(x_1, y_1)における接線Lが L: y-φ(x_1)=φ'(x_1)(x-x_1) で表される, と言うべきだけど.
(*2) かつC^1級で単射であるものを陽表示と呼ぶ(「写像」としての性質は説明を省いた方が無難のように思う). 単射でなくてはいけない理由として, 単射でないとp=(a±r, b)∈Mをφの定義域から除くことができない. できないと, 一点x=a±rにおいてy’=φ’=±x/[r^2-(x-a)^2]^(1/2)の分母が0になり, y’が定義できない. これは陽関数を与えるφが範囲内でC^1級であるという定義に反してしまう. 実はこれはk=1の時のC^1級k次元径数付き多様体φの定義そのものである.
(*3) ここが恐らく説明のネックになると思われる. 高校生は多変数関数・ベクトル値関数の微分法を知らない. 2次元の図形(=一次元多様体)に関しては陽関数表示によって一変数関数の微分のみ知ればいいが, (1.1)の意味を完全に了承できるためには少なくとも3次元における接線(=接面)を理解しないと難しいと思う. (1.1)は接線の「定義」として与えるべきか.
(*4) g(x_1+a, y_1+b)=x_1^2+y_1^2-r^2=0から出る. 幾何学的意味は単純で, 「中心を移動させても円の半径は変わらない」ということ.