写像の文脈では, 著者によって「写す」と「移す」という異なる表記があるらしい. 前者はmapの和訳通り, 「ある集合の元をある集合の唯一つの元に移すもの」, つまり「写像主体」になっていることを強調する表現で, 後者は元そのものが移動する, あるいは移動させるというニュアンスから, 元の集合(domain)と行き先の集合(codomain)に初めから何らかの関係があり, その関係を記述するものが写像である, という「集合主体」の表現であると解釈できなくもない.
最近順系の普遍性がよく分かってきた. その経緯で関連した命題を記しておく.
命題2.8.2: Bが平坦A-代数でかつNが平坦B-加群ならば, NはA-加群として平坦である.
証明: A加群の完全列をとる. このときBは平坦A加群として関手で写される完全列
を引き起こす(右完全性は左随伴関手としてのの性質により従う). は写像によりB-加群と見れる. このとき平坦B-加群Nの性質から関手でB-加群としての完全列
が誘導される. 同型によってNのA-平坦性が出る((A,B)-複加群としてのNの性質から, 自然な同型を使っている) ■
命題2.10: Aを可換環, aをAのイデアルでを満たすものとする(rad(A)はAのJacobson根基). MをA-加群, Nを有限生成A-加群とし, をA-凖同型写像とする. このとき誘導された凖同型が全射ならuも全射である.
証明: NのA上の生成元をとする. が全射であれば, 各生成元に対し, Mの元で, のにおける像に写すようなが少なくとも一つ存在する. 正確にはより.
そこで
より, と書くことにすれば,
とかける. ここでは行列に対しで定義されるNの自己凖同型環上の行列と見る.
の行列式dはから分かるように, Cの特性方程式に-1を代入したものを倍したもので, の形である. の余因子行列を(e)の両辺にかけると, を得る. はの要素の(n-1)次多項式であるから勿論Aの元. であるからで,
がMからNへの全射を与えている ■
命題13. を環凖同型, NをB加群. によってNをA-加群とみてB-加群をつくる. このときyをに写す凖同型写像は単射であること, またg(N)はの直和因子であることを示せ.
証明. gの単射性: gはA加群の凖同型であるから, を言えば良い. 実際なら単元が存在してay=0より直ちにy=0. なお, ここで単元の存在を言うのは, 0でないyに対してyを零化するAの元の存在を否定できないから. 単元がそのような元である心配はない.
また, は明らかに全射である.
このB-加群の列は完全で, pの右逆凖同型, つまりpの分解B-凖同型としてgをとれる. 実際
でである. 故には分裂し, ■
命題. 有向集合Iを固定し, この上のA-加群の順系を考える. 各順系の順極限を, 対応する準同型をとする.
準同型が図式
を可換にするとき, 図式(*)
を可換にする準同型が一意的に定義される.
証明. 示すべきことは次の三つである.
(i) が写像としてwell-definedであること
(ii) が存在すること(手順を与えて構成できる)
(iii) (*)を可換にするような写像として, が一意的であること
(i)は(ii), (iii)を示せば明らかであるから, (ii)をまず示す.
加群の直和に対し, 写像
は任意のをでに写す写像として自然に定義され, である. これは明らかにA-加群の性質を保存する.
このとき(*)の可換性を使えば, 図式
を可換にするとして定義できる.
具体的にはに対しをとり, 次の等式を得る(はIの部分集合).
(*2)=(*3)のとき, を満たす準同型を
と定義できる. 但しこのは, を満たすようなが必ず存在するので, そのようなもので任意の一つを取る. 二つの異なる有向集合の元でを満たすものに対し, (*2)=(*3)によって値は一意的に定まることがわかる. これで(ii), (iii)が示された. ■