中学数学でモジュライの概念を説明できるものがあるので、それについて説明したいと思う。
まずモジュライ(空間)というのは, 平易に言うならば「ある性質」を持つ図形をその性質を持つ図形全体の中で「点」として捉えることで、「ある性質」を持つ図形で異なる種類のものがどれだけあるのか、異なる種類の図形の差はどのような性質で特徴付けられているか、といったことを調べるための道具だと言える。
そこで話を分かりやすくするため、次のような三角形を例に考えてみよう。
m, nは斜辺の長さで、θ、φは角度、hは上の頂点から角を(θ,Φ)に分ける底辺への線分の長さとし、a, bはそれぞれhの足からの底辺の左側、右側の長さとする。
(m,n,θ,Φ)が決まれば(h,a,b)は一意的に決まるが、興味をもう少し狭めて「いつm:n=a:bが成り立つか?」を考えると、実は(m,n,a,b)が与えられている状況では次が成り立つ。
従って与えられた三角形を(m,n,θ,Φ)と同一視して、これから一意的に定まる(a,b,h)が性質「b/a=n/m」を持つためには、θ=φとして良いことが分かる。
一方これは必要条件であって十分でなく、θ=Φとしただけでは必ずしもm,nの比とa,bの比が等しくならない三角形が作れる。
実際のところ、計算すると次が分かる。
よく知られているように二等辺三角形(m=n)の場合, この条件はh=mcosθのことであり、このとき縦線と底辺が直角に交わることを表す(二等辺三角形の場合は例外的に上の条件が自動的に成り立つが一般にはそうではない。例えば(m,n,θ)=(1,2,π/6)のとき, h=のとき, そのときに限りn/m=b/aが成り立つ)。
hをθの関数として見ると、h(θ)は開区間(0,π/2)で定義された狭義単調減少函数であり、h=h(θ)の解は一意的である。
よって次のことが分かる。
「ユークリッド空間において(m,n,θ)に対し性質「b/a=n/m」を満たす三角形は唯一つ定まる」
さらに相似をも同一視すると,
なる1:1対応が存在し(は(m,n,θ)が任意に動く時に条件を満たすような相似を同一視した三角形の集合), 「性質を満たす三角形を相似で同一視したもの全体は、正の実数と開区間との直積で表される」と言い換えることができる(この写像は正実数の比n/mを第一パラメータとして取っているが、m=1としてnを動かしても元のm,nで表された写像の全ての像を尽くす。そしてこのときΔのパラメータのmは不要であるが、混乱を避けるためにあえてこのようにした)。
このように条件を課して分かり辛くなった図形の集合が、非常に単純な実数と開区間からの写像で実現されてしまうところにモジュライの価値があると思われる。