瑞牆山へ

GWの振替を自称する休暇を満喫する最中、福井・滋賀・愛知・静岡からの帰り道に兼ねてより行きたかった瑞牆 (ミズガキ) に足を運ぶことにした。

登山用具は常にトランクに積んであるが、地図やトポ[1]登攀対象となる岩壁上の特定のルートを図示したいわば「クライミングの地図」である。は持ち合わせていない。翌日仕事なので「カンマンボロン」という洞窟の奥にある岩盤を目指して下見のつもりで出発した。

一般登山道から少し外れるだけで、苔蒸した数メートル~数十メートルの岩壁が次々と切り立つ様は、人気の山[2]百名山の一のようである。としては特殊な印象。

手始めに幾つかのボルダーを試登したが、登れる・登れないは兎も角として、(日当たりが良く) いずれも安定した花崗岩で、多くのクライマーが訪れる理由も分かる。


そんな中、上部にボルトが設置されたリード[3]リード (lead climbing) というのは、クライマーがロープに先行して登攀するクライミングスタイルであり、ロープがクライマーに先行して … Continue reading向け「課題」を見つけた。

取り付き[4]クライミングを開始するポイントのこと。は10メートル強上側にあり、迂回してトラバース[5]岩壁の横移動のこと。する必要があった。

取り付きにはロープと使い古されたクライミングギア一式が取り残されており、連日雨だったのでトップアウトした人が残したか、降りれなくなった登攀者のために残してあるのか、特に気に留めなかった。

取り付きに到着し、いざロープ・ソロ・システムの準備を開始しようとする正にその時、下方で年配のペアと目が合った。何か私に話しているようである。

女「登ります?」
私「はい」

しばらくして取り付きに登って来た女は、私を一瞥し、

女「どれ登ります?」
私「システムの練習を兼ねて準備してるので、まだどれを登ると決めてる訳ではないです」

(女は怪訝そうな顔をし、クイックドローが掛かっているボルトが設置されたルートを指さして)

女「これ、使わないでくださいね」

(私はロープ等のギア一式を指して)

私「このギアはあなたのですか?」
女「そうです」

(取り付きは細長く, 一人しか通れない. 年配のペアは道具を回収して帰るのかと察して)

私「取りましょうか?」

(女は質問には答えず)

女「だからどれ登ります?」
私「ですからまだ決めかねてますが、木を (ロープ・ソロの) 支点にするつもりです」

(女は急かすように)

女「いや、だからどれ登ります?」

(少し間があって, 私はクイックドローが掛かってるルートの直ぐ隣のルートを指さして)

私「ではこのルートを登ろうと思います」
女「これはプロジェクトなので、今製作中のプロジェクトなので、制作者は触らないようにと言っています」
私「?」
女「だから今登るのが許されてるのは、これ(クイックドローが掛かってるやつ)と、これかな」


私「・・・降りますね」

争いが不毛に思え、目の前の課題に思い入れがある訳でもなく、無言で支点に掛けた自分のギア類を回収し、取り付きから降りるためのトラバースロープに確保を取った。

男は後ろの方に退避しており、私は「お先です」と一声かけたが、返答は無かった。

詳しいことは知らないが、その課題製作者というのは土地所有者だろうか。また道具を残置して食事にでも行ってたのだろうか。であればそのように伝えれば良いのではないだろうか。色々議論はあるかも知れない。仮に場所取りだったとして、それが有効か無効かはさておき、協議すれば良いのではないだろうか。

「これ私たちの道具なんです。途中で少し離れてて置きっぱなしにしてたんですけど、続けて登っても良いですか?」

そのような一言でもあれば、そこはクライマー同士、直ぐに状況を理解し場所を空けただろう。

大自然にまで来て人間のエゴを見せつけられたようで、大変後ろ暗い気持ちになった。


気を取り直し、ロープ・ソロ検証用の岩盤を探した。瑞牆はリードルートが豊富なことで知られ、色々な岩を試登するには最適である。

ロープ・ソロの実運用としては、Ka’au Crater Trail途中にあるリード課題が最初で、その後もシングルピッチの簡単なルートを数える程登った程度で、まだシステムを完全に信頼できていない。

時間も迫っているのでボルトが付いたルートが道中あったことを思い出し、そこまで戻ってトライしてみることにした。

RPは現在の実力では不可能だが[6]後で調べるとチョーサイコールーフ (12c) しじま谷 龍脈門 (13a)という課題のようだ。、支点の作り方について幾つかの改善点が見つかった。

そして思いもよらずいつか完登したいという想いが沸き起こり、現場を後にした。

Mizugaki review

Footnotes

Footnotes
1 登攀対象となる岩壁上の特定のルートを図示したいわば「クライミングの地図」である。
2 百名山の一のようである。
3 リード (lead climbing) というのは、クライマーがロープに先行して登攀するクライミングスタイルであり、ロープがクライマーに先行して (トップの支点にロープが固定されている状態で) 登攀するより安全なクライミングと対比される。
4 クライミングを開始するポイントのこと。
5 岩壁の横移動のこと。
6 後で調べるとチョーサイコールーフ (12c) しじま谷 龍脈門 (13a)という課題のようだ。