ウサギと亀のパラドクス(Achilles and the Tortoise)

走ることの最も遅いものですら
最も速いものによって追い着かれないであろう。
なぜなら追うものは、追い着く前に、逃げるものが走り始めた点に
着かなければならず、したがって、より遅いものがいくらかは常に
先んじていなければならないからである

ref: 文献

正式には「アキレスと亀」と呼ばれる紀元前の哲学命題らしい。
自分がこれを初めて目にしたのは何かの初等解析の教科書だったように記憶している。

法律科の某友人からこの矛盾性について「違和感はあるがうまく示せない」との相談を受け、考えてみたことを書いてみようと思う。

偉大なる先人方の積年の結果により、現代数学の手法はこのパラドクスに十分な解釈を与える。
これが「難題」と評された時代背景として、本質的なのは、アルキメデスの原理(数学の方)がなかったことに起因するのではないかと考えられる。現代の人が騙されてしまうとすれば、その要旨はどこにあるのか、という点まで考察する。

下図のように、亀をアキレスより距離R、前に進ませておく。
このときアキレスと亀はそれぞれ速度ν、γを持つと仮定する。
図から分かるように、時間tに対するアキレスと亀の距離d(t)=R-t(ν-γ)は有限のt≧0についてd(t)≦0となるものがある。

achilles_tortoise

これはアキレスが亀を追い越したことに他ならない。

さて、これで矛盾は指摘されたと思われるかも知れない。
しかし問題の本質はもっと深いところにある(歴史的な事実としてはゼノンに約200年遅れてアルキメデスが誕生しているらしい)。

まず先に出したアルキメデスの原理なるものを言及しておこう。

任意の正の実数a, bに対して, 自然数nで

a<nb

ならしめるものが存在する.

興味がある人は適当な解析の教科書にその概要は書いてあるので参照されるといい。これが実数の連続性を規定すると言われる訳は、次の命題を考えることで明らかとなる。

任意の正の実数a, b∈Rに対し,

a<x<b (a,b∈R)

となる正の有理数xが存在する

この事実はaとbが離れているときには適当に[a+1]等と取ってやればよい([*]はガウス記号)ので問題ない. a, bが近いとすると、n(b-a)>1となるn∈N(:=自然数)が存在する(Archimedes). そこでnb=na+n(b-a)>[na]+1>naと取ってやれば,

a<([na]+1)/n<b

が求めるxである.

これは、実数体というより可算稠密な基礎体としての有理数体を特徴づける内容だが, 実数体は有理数体を含むのであるから, 上の方法でa, bを無理数(例えば√2とか)を含むものを取ってやれば, xを無理数になるように簡単に拡張できる.

長くなったが本題に入ろう.
アキレスと亀の速度を各々ν、γとした. アキレスは世界一速いそうだが, 亀よりどれくらい速いのかは明記されていない(英語版wikipediaにもconstant speedとしか明記されていない. 原文もそうなのであろうか).

先ほどのbとaをアキレスと亀の速度と見て 互いの速度に十分な差があれば, 有限時間内にアキレスが追い越すのは見て分かるとおりである.

しかしアキレスが亀を僅かに上回る速さでスタートしたらどうか、という問題は、もはや自明な問題ではない。

現代的な手法では, アキレスの速度をν=ε+γ, 亀の速度をγとし, 時間tにおける二人(一人と一匹か)の距離を関数

φ(t)=R-t(ν-γ)=R-tε

で定義する.

今アルキメデスの原理を仮定すれば, 任意の実数R, ε∈Rに対し,

R<tε

となるt∈Nが存在する(上で述べたアルキメデスの原理の形とは逆だが, 変形してt/R>1/εと置けば同じこと)

これは有限時間でアキレスが亀を追い越すことを示すのであった.

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