今回は3次方程式の根の調べ方を書いてみようと思います. とりわけ理論の詳細は省略し(理解したい方は教科書を参照のこと), 実用的な(私の使っている)方法を述べます.
下のプログラムは私の作った3次多項式の係数から判別式(Descriminant), 根, グラフを表示するもの(但しグラフはgoogleへのリンク)です. 使うには, 各項の係数を記入し(係数が1, 0である場合も記入. -2や2/3, -5/2等も可), Enterキーを押すと結果がでます. プログラムファイルが消失してしまいました(2021年).
まず対象の3次方程式を と書き, 係数は有理数としておく.
と書き, 係数は有理数としておく.
モニック多項式の間の写像 によって, 係数の間の写像
によって, 係数の間の写像 を引き起こすので, 二次の項の係数はいつも0と仮定して良いことに注意する(この正規化された多項式の根から
を引き起こすので, 二次の項の係数はいつも0と仮定して良いことに注意する(この正規化された多項式の根から を引けば元の根になる).
を引けば元の根になる).
正規化された多項式を改めて と書き, その3つの根(重複を許す)
と書き, その3つの根(重複を許す) に対し, 判別式
に対し, 判別式 は
は
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[D(f)=-4a_2^3-27a_3^2\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-a2bb036b223c26815c6b668ae30d887b_l3.png)
で与えられる. 定数 を
を で定める.
で定める.
 を1次, 0次の係数に持つ二次多項式の根は,
を1次, 0次の係数に持つ二次多項式の根は,  と置くとき,
と置くとき,  になる.
になる.
上の正規化された3次多項式fの根は,  (1の原始3乗根)を使って,
(1の原始3乗根)を使って,
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[\begin{array}{lcl}\alpha &=& (U+V)/3 \\\beta &=& (\omega^2 U+\omega V)/3 \\\gamma &=& (\omega U+ \omega^2 V)/3\end{array}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-6290aad48bfd9fa7ed089f37b791a561_l3.png)
と表される.
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この応用に円分体の中間体を求める問題を考える.
prob. 原始7乗根 に対し,
に対し,  の
の 上の拡大次数3の中間体Mを求めよ.
上の拡大次数3の中間体Mを求めよ.
solv. 簡略のため とする. 7は奇素数だから, L/KのGalois群Gは位数7-1=6の巡回群で,
とする. 7は奇素数だから, L/KのGalois群Gは位数7-1=6の巡回群で,  である. 仮定より[M:K]=3だから, 拡大次数の性質により, [L:M]=6/3=2. L/MはGalois Extensionだから, そのGalois群HはGの位数2の部分群で, 下の対応表を見ると分かるように,
である. 仮定より[M:K]=3だから, 拡大次数の性質により, [L:M]=6/3=2. L/MはGalois Extensionだから, そのGalois群HはGの位数2の部分群で, 下の対応表を見ると分かるように,  の位数2の元は6しかない. そこでHは6で生成される群に同型, つまり
の位数2の元は6しかない. そこでHは6で生成される群に同型, つまり .
.
|  |  | Z/6Z | 位数 | 
|  | 1 | 0 | 1 | 
|  | 2 | 2 | 3 | 
|  | 3 | 1 | 6 | 
|  | 4 | 4 | 3 | 
|  | 5 | 5 | 6 | 
|  | 6 | 3 | 2 | 
Artinの定理があるから, MはLの元でHによって固定される元から成る. HのLへの作用は(つまり を考えると), 自明なものを除いて
を考えると), 自明なものを除いて しかない. LがK上
しかない. LがK上 で生成されることを考慮すると,
で生成されることを考慮すると,  は
は の冪の有理数体上の加減乗除によって成る元で,
の冪の有理数体上の加減乗除によって成る元で,  (
( を6乗する作用)によって固定されるもの全体である.
を6乗する作用)によって固定されるもの全体である.
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[(*1)\ \cdots \ \begin{cases}\alpha =& \zeta+\zeta^6\\\beta =& \zeta^2+\zeta^5\\\gamma =& \zeta^3+\zeta^4\end{cases}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-314aa1fc1fbade63794877eb60098f0e_l3.png)
と置くと,  であることが分かる.
であることが分かる.
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[\begin{array}{lcl}\alpha+\beta+\gamma &=& -1 \\\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha &=& -2 \\\alpha\beta\gamma &=& 1\end{array}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-927db5fd2821778404e8be9e469951dd_l3.png)
から,
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[f(x)=x^3+x^2-2x-1\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-c7ddf132efe99460aadb25270407a60d_l3.png)
は を根にもつ. 実際にはK上これら3根の最小多項式になるが, 証明しておく.
を根にもつ. 実際にはK上これら3根の最小多項式になるが, 証明しておく.
 だから相異なる実根を3つ持ち, もし一つでも有理根を持てば整数根を持ち(整数環は整閉整域である), それは定数項で割り切れなければならないが,
だから相異なる実根を3つ持ち, もし一つでも有理根を持てば整数根を持ち(整数環は整閉整域である), それは定数項で割り切れなければならないが,  よりそれはあり得ない. モニックな3次多項式fが
よりそれはあり得ない. モニックな3次多項式fが 上可約である必要条件は有理根を持つことだから, 結局fはモニックな既約多項式, すなわち3根のK上の最小多項式になる.
上可約である必要条件は有理根を持つことだから, 結局fはモニックな既約多項式, すなわち3根のK上の最小多項式になる.
定義からMはfのK上の最小分解体で, 同型![Rendered by QuickLaTeX.com Z[x]/(f(x))\cong M/K](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-dd72ac9363bfb175ee7cff6d1d696fdb_l3.png) が
が で与えられる (
で与えられる ( を取っても同型であることに変わりない). 故に[M:K]=3が言える.
を取っても同型であることに変わりない). 故に[M:K]=3が言える.
今度はこの を冪根によって表示してみよう.
を冪根によって表示してみよう.
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[f(x-1/3)=g(x)=x^3-7x/3-7/27\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-76154adea36d7dce24d4998872addad4_l3.png)
と正規化しておいて, 上の記号で が得られる.
が得られる. を1次, 0次係数に持つ二次多項式を考えて(
を1次, 0次係数に持つ二次多項式を考えて( ), 通常のLagrangeによる方法で
), 通常のLagrangeによる方法で
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[\begin{array}{lcl}\alpha &=& \displaystyle{\frac{1}{3}( {}^3\sqrt{\frac{7+21i\sqrt{3}}{2}} + {}^3\sqrt{\frac{7-21i\sqrt{3}}{2}} - 1)} \sim 1.2469796037174674 \\\beta &=& \displaystyle{\frac{1}{3}( \omega^2 \cdot {}^3\sqrt{\frac{7+21i\sqrt{3}}{2}} + \omega\cdot {}^3\sqrt{\frac{7-21i\sqrt{3}}{2}} - 1)} \sim -1.801937735804838 \\\gamma &=& \displaystyle{\frac{1}{3}( \omega \cdot {}^3\sqrt{\frac{7+21i\sqrt{3}}{2}} + \omega^2 \cdot {}^3\sqrt{\frac{7-21i\sqrt{3}}{2}} - 1)} \sim -0.4450418679126287\end{array}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-da2661b1690fa3f0207cffe3620ea4c4_l3.png)
となる.  は1の三乗根である. 見た目に反してこれらは全て実数内で実現されている(実数であることは
は1の三乗根である. 見た目に反してこれらは全て実数内で実現されている(実数であることは の定義が複素共役について不変であることから分かる).
の定義が複素共役について不変であることから分かる).
また留意点として, 今回Gは巡回群で, 従ってAbel群であったから任意の部分群が正規なので がGalois Extensionになったが, 一般には
がGalois Extensionになったが, 一般には がGの正規部分群とは限らず, 正規部分群でない場合
がGの正規部分群とは限らず, 正規部分群でない場合 もGalois Extensionとはならない.
もGalois Extensionとはならない.
ここで中間体Mの満たすべき性質に立ち戻って考えてみよう. それは等式 に集約されている.
に集約されている.
つまり の加減乗除によって生成されるので, (*1)の代わりに
の加減乗除によって生成されるので, (*1)の代わりに
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[(*2)\ \cdots \ \begin{cases}\alpha =& \zeta+\zeta^2+\zeta^5+\zeta^6 \\\beta =& \zeta^2+\zeta^3+\zeta^4+\zeta^5 \\\gamma =& \zeta+\zeta^3+\zeta^4+\zeta^6\end{cases}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-90303e944557033638869f2db1e18a79_l3.png)
としても, 結果として得られる中間体は同型でなくてはならない(これらも を6乗する作用について不変である). 体として同型な生成元がどのようなものであるかを確かめてみよう(ガロア群も構成から同じHを使ってるので明らかに同じ)
を6乗する作用について不変である). 体として同型な生成元がどのようなものであるかを確かめてみよう(ガロア群も構成から同じHを使ってるので明らかに同じ)
最初の方法と同様にして,
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[\begin{array}{lcl}\alpha+\beta+\gamma &=& -2 \\\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha &=& -1 \\\alpha\beta\gamma &=& 1\end{array}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-3f9817029fb9cf9a0d1e736ea693a820_l3.png)
と, それらのK上の最小多項式
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[f(x)=x^3+2x^2-x-1\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-6430e0a1a69c46741bd7132d808c438c_l3.png)
を得る. これを正規化したgは
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[f(x-2/3)=g(x)=x^3-7x/3+7/27\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-1439e993f23f34566f7425b6f18f3fd0_l3.png)
となるので,  を得る. これから
を得る. これから
      ![Rendered by QuickLaTeX.com \[\begin{array}{lcl}U &=& \displaystyle{ {}^3 \sqrt{\frac{-7+21i\sqrt{3}}{2}} } \\V &=& \displaystyle{ {}^3 \sqrt{\frac{-7-21i\sqrt{3}}{2}} }\end{array}\]](https://blog.icefog.work/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-cc7a65d4c30d039c42e64fed36c8e0d9_l3.png)
として良いことが分かるので, 結局最初の の表示式において7の符号を変えた生成元が得られる.
の表示式において7の符号を変えた生成元が得られる.
興味深いことに, これら二つの異なる生成元によって得られた最小多項式の判別式は等しい(=49)■
追記. より発展した興味深い話題として, Galois拡大体の同型を類として得られる方程式の族の代数多様体がある. これは今度時間を見つけて調べる.
「3次方程式の解法: Galois-Lagrangeの方法」への1件のフィードバック