レビュー:複素解析 アールフォルス著

夜から読み始めていつの間にか朝になっていた。

そのタイトルと包装からして固い、カチコチの数学書ですが、それだけでは想像もつかない内容で、実に教科書で感動するというのは久々です。

アールフォルス氏の書く内容は、数学への極めて鮮明で深い理解と、理解させようという意志が感じられる。意志を感じる本というのは、すさまじい。なかなかないもんです、姿勢が正されるというのは。

一つ例を挙げるだけで十分この素晴らしさは伝わるだろうから、一つだけ挙げてみよう。

テイラー展開の項を見ると分かるが、これは無論道具としては常識的なもので、意欲的な人は高校生でも知っているようなものだし、通常の理系大学生であれば一年次にさらっと習うようなことだ。

しかしここでかなりの工夫・配慮が凝らされているのは、5章にもってきている点からも伺える。

私の読んだ他の解析系の教科書では、導入は大抵次のような流れになっている。

1. 実数の連続性、εδ論法で位相的性質を学ぶ
2. 複素数の性質と、ある領域の関数がコーシーリーマン方程式と連続性を満たすものとして解析性を論じ、複素微分を学ぶ
3. 領域内で複素微分可能な関数は、広義一様収束するような級数、即ちテイラー級数への展開ができる

対してアールフォルス氏は、複素積分を先に扱う。

複素積分の理論を一通り終えるまで級数展開を待つのは、関数の関数、即ち汎関数としての複素積分の性質を利用して図形的な直感的正当性に訴えながら、解析的厳密性を失わせずに、関数の表現に関わる一通りの理論を構築したかったからだと考えられる。

これは本質的なところで、実際大雑把に言って解析関数の収束半径が微分演算で不変だということも、広義一様収束級数の積分に関してσ加法性が成立するというのを利用して簡単に示せる。

解析関数が無限回複素微分可能というのも、積分を使ったコーシーの表示を使えばもはや自明だ。

何よりアールフォルス氏は、複素積分よりも前にリーマン面について言及してる。これは強力である。

これによって一次変換群の作用が円を円に、直線を直線に移すことを学べる。高校までの数学しか知らない人は、関数が点を点に写すことは理解できても、図形を図形に写すという感覚には乏しい。それを得るのには慣れが必要だろうし、その具体的な確かめ方はリーマン面という新しい空間を用意しなければうまく説明できない。

初学者的にもこの作法は魅力的で全ての理論立てを「自分で証明が行えるようにする」書き方をしている。

そしてアールフォルス氏は、全体的に関数列の扱いが丁寧であるように思える。
例えば正規族には古典的な定義と(微分幾何・ホモロジー代数視点の)新しい定義を別々に論じ、それらの意味や解釈までも除外しない。

素晴らしい!の一言。

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