可換環2

過去に飛ばしていた既知の命題を自分で示してみた単なるノートです. Atiyah-MacDonald出典.

平坦性という性質に束論で抽出される性質が関わっていることをこの本で初めて知った. こんなところで使われているとは・・!

整数環の判定に関する検証

R=Z[\omega i]\ (\omega\in R)をZ上\omega iで生成される環とする. \omega=1ならよく知られたガウス整数環である.
もし\omegaがZ上代数的なら, あるn\in Nが存在して\omega^n=w_{n-1}\omega^{n-1}+\cdots +w_1\omega+w_0\ (w_k\in Z)となるからRの線形基として
\{1,\omega i,\omega^2,\cdots,\omega^n\zeta^{2n}\}をとれる(但し\zetaは原始4乗根).
\omega^2\in Zであれば, この環の任意の元はa+b\omega i\ (a,b\in Z)と表され, c+d\omega iとの積

    \[(a+b\omega i)(c+d\omega i)=ac-bd\omega^2+(ad+bc)\omega i\ \cdots\ (I)\]

を考えることで, R上の既約性条件が得られる.
Rの単元を確定するため上の積(I)をxyとおいて, xがRの単元であるならば,

    \[(ad+bc=0)\wedge ((bd=0 \wedge ac=1)\vee (\omega^2\in Z\wedge ac-bd\omega^2=1))\ \cdots\ (II)\]

が必要である. 中辺はx=\pm 1の場合であり, 右辺で\omega=\pm 1を仮定すると, 行列論から

    \[ac-bd=1\Leftrightarrow a=c=\cos{t},\ -b=d=\sin{t},\ t\in[0,2\pi)\]

を満たすtの存在から, x=\pm 1を除けばx=\pm \sqrt{-1}=iがRの単元である. 逆にRに\pm 1,\ \pm i以外の単元が存在するためには\omega=\pm\sqrt{m}\ (m\geq 2)となる整数mが存在することが必要.
今この様なmの存在を仮定する.

(II)の右辺からac-bdm=1でmはacを割り切らない. \exists l\in[1,m-1]\cap\mathbb{N},\ k\in\mathbb{Z};\ ac=km+lである. 1=(k-bd)m+lで今m\geq 2を仮定しているからk-bd=0,\ l=1を得る.
(II)の左辺を加えて

    \[a(c^2+d^2)=(m-1)bcd+c\ \cdots\ (III)\]

これはx=a+b\omega iがR上単元であるための必要条件を与える. 詳しくは(a,b,m)を固定したときの方程式(III)の整数解(c,d)の有無が決定する.

具体的に一つ計算してみよう.

(a,b,m)=(2,3,5)とおく. このとき

    \[\begin{array}{lcl} 2(c^2+d^2)&=&(12d+1)c\ (c=2k,\ k\in\mathbb{Z})\\ &\Leftrightarrow& (4k^2+d^2)=(12d+1)k \\ &\Leftrightarrow& d=6k\pm\sqrt{32k^2+k}\ (\exists k,d\in \mathbb{Z}) \\ &\Leftrightarrow& \exists q\in\mathbb{Z},\ 32k^2+k=k(32k+1)=q^2 \\ &\Leftrightarrow& \exists r\in\mathbb{Z},\ r^2-32p^2=1\ (k=p^2,\ p\in\mathbb{Z}) \end{array}\]

を得る. 最後の方程式が有理解を持つことはHilbert記号による判定法により, \displaystyle{\prod_v (1,-32)_v=1}を満たすことから分かる(vは素数全体を走る). しかし今のところこれ以上のことは分かっていない.

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イデアルに関する数々の命題

まずは重要な次の定理の証明を与える.

命題. X_I=\{ A/Iのイデアル\},\ Y_I=\{ Iを含むAのイデアル\}の間には1対1対応が存在する.

証明. 対応\phi:X_I\rightarrow Y_I,\ \psi:Y_I\rightarrow X_Iを考える.
任意の\overline{J}\in X_Iにおける積は, 剰余環の定義に従ってwell-defined, つまりx=x',\ y=y'\mod{I} \Leftrightarrow xy=x'y'\mod{I}であったことに注意する.
つまり任意の元\overline{x}\in\overline{J}\in X_Iについて, (集合として)\overline{x}=x+Iと書いて良い. このとき, \overline{x}で生成される単項イデアル(\overline{x})(x)+Iに移す対応:

    \[\phi(\overline{x})=(x)+(I)\]

がそのようなものを与える. (x)+IがIを含むことはイデアルの和の定義から(0+g\in I\subset (x)+I \ \forall g\in I), Aのイデアルであることも明らかであろう.
今の構成は\overline{J}が有限生成であるときには問題ない. \overline{J}が無限集合であるときにも\phi(\overline{J})=J+Iと定義すれば, 右辺がIを含むことは有限の場合と同様に分かり,
任意のx\in J+Ix=\sum_i a_iu_i\ a_i\in A,\ u_i\in J+I (但しa_iは有限個を除いて0)と表せることからイデアルの公理も満たす.
\psiを逆にJ+IA/Iにおける剰余類\overline{J}を対応させるものとして定義すれば, \phi,\ \psiが互いに逆の対応だということはすぐ分かる.

命題. Aを環, そのイデアルをI\subset A, Mを有限A加群とすると,

    \[\sqrt{ann(M/IM)}=\sqrt{ann(M)+I}\]

証明. \exists n\in\mathbb{N},\ x\in ann(M/IM)なら, xM\subset IM. Mの元yに対し, 写像y\mapsto x\cdot yはMの上の凖同型写像で(Mにしてみれば定倍写像である), これを単にx\in End_A(M)と書く, x^k(M)=(x\circ \cdots \circ x)M=x^kMに注意し, 行列式の技巧を使うと, a_j\in I^j,\ 1\leq j\leq nで,
\phi(x)=x^n+a_1x^{n-1}+\ldots+a_{n-1}x+a_n=0を満たすものが存在する(\phiはMの写像として0). xはEnd_A(M)の元であると同時にAの元でもあるから, a_kx^{n-k}\in ann(M/IM)\cap I\ (k\neq n). ゆえにx^n\in ann(M)+I. 逆はMの元を掛けてやれば明らか.

集合X=\{-2^{-n}:0 \leq n < \omega \} \cup \{1\}に実数Rから誘導される位相を入れた空間を(X,R), Rを全順序集合と見做すときに誘導されるXにおける順序位相を入れた空間を(X,O)とする. ここに\omegaは無限と考えてよい.
(X,R)において\{1\}は開集合である(0の左近傍で可算無限に多くの元を含みうるが, その元の間にはRに誘導された位相による稠密な元が非可算個存在, これらは開集合の合併で表され, X-\{1\}は閉集合となる).
一方(X,O)においては集積点である(一点集合1を除く閉包\overline{X-\{1\}}, すなわち\{-2^{-n} : 0\leq n<\omega \}を含むXの最小の閉集合はX自身であり, 1はこれに含まれるため).
この違いは, 順序位相では順序≦による(上側および下側)切片が準開基を規程するため, 稠密性は位相に影響しなくなる.

命題. 環S上の環Rの元の列{x_1, \ldots, x_n}が与えられたとき, 剰余環A=R/(x_1,\ldots,x_n)の同型

    \[A\cong (S/Sx_1)\ldots (S/Sx_{n-1})R/Rx_n\]

が成立する.

証明. RのイデアルI_k\ (k=1,2,\ldots,n)I_k=Rx_k+\ldots +Rx_nと定義し,

    \[\begin{array}{lcl} R/(x_1,\ldots,x_n) &=& R/(Rx_1+\ldots+Rx_n) \\ &=& R/(Rx_1+I_2) \\ &\cong& (R/I_2)/(R/I_2)x_1 \ \cdots \ (k) \\ &\cong& (S/Sx_1)(R/I_2)\ \cdots \ (l) \end{array}\]

に帰納法を適用すれば良い.
同型(k)は上への環準同型を

    \[R\ni f\mapsto ((f\mod I_2)\mod Rx_1) \in (R/I_2)/(R/I_2)x_1\]

で定義することで, 核が(Rx_1+I_2)となることから従う(x_1\in I_2ならRx_1\subset I_2だから\mod Rx_1の部分は落とせる. 逆にf\mod I_2\neq 0,\ (f\mod I_2)\mod Rx_1=0を満たすのはf\in Rx_1-I_2となる場合に限るから, Rx_1\cup I_2を含む最小のイデアルが核である).
同型(l)はRの係数環Sを\mod Sx_1で考える環準同型SR\rightarrow (S/Sx_1)Rの核が(Sx_1)Rであることから分かる.

加群のアルティン性とネータ性は独立のものである. Zは加群としてみる場合, 部分加群はnZの形なので, 任意の自然数にその素因数分解によって加群の上昇列を対応させる写像が存在し,

    \[\displaystyle{\prod^m_{k=1}p_k^{r_k} = \forall n\in\mathbb{N}\mapsto nZ\subset (n/p_1)Z\subset \cdots \subset Z}\]

となるから上昇列は常に有限でネータ的. 一方素数は無限個存在するからアルチン性は持たない. 素数pの巾を分母に持つ有理数は通常の分数の和の演算で加法群Wをなし(m/p^k+n/p^l=(mp^l+np^k)/p^{k+l}\in W), 整数を0に等化したW/Zもまた自然に加群と見做せる.
W/Z=\{0,\pm 1/p,\ldots,\pm (p-1)/p,\pm 1/p^2\ldots,\pm (p^2-1)/p^2,\ldots\}で, この加群は0,\ p^{-g}Z/Zのようなものを部分加群として真に含む. 先ほどと類似の写像により

    \[\displaystyle{\forall n\in\mathbb{N}\mapsto p^{-n}Z/Z\supset p^{-n+1}Z/Z\supset \cdots \supset Z/Z=0}\]

で減少列は常に有限で止まるが増大列は止まらない.

Boolean Ring(ブール環)とvon Neumann Regular Ring(フォン・ノイマン正則環)に関して

Boolean Ringの定義は, 「可換環Aで, 全てのa\in Aに対しa^2=aを満たすもの」である. ここでAに乗法単元を含むかは問わない.
まず次の一般的な性質を示す.

(i) 2x=0\ (\forall x\in A).
(ii) 任意の素イデアルpは極大イデアルで, A/p\cong F_2.
(iii) Aのすべての有限生成イデアルは単項イデアルである.

(i)証明. aをAの単元とする. (a+x)^2=a^2+2ax+x^2=a+x+2ax=a+x. 最後の等式から2x=0\ (\forall x\in A)
(ii)証明. pを真に含むイデアルをIとし, x\in I\backslash pを取っておく. このxに対し,

    \[\begin{array}{ll} & x=x^2 \\ \therefore & x(1-x)=0\in p \\ \therefore & (1-x)\in p \\ \therefore & 1\in (x)+p\subset I \end{array}\]

故にI=A. これはpが極大であるということである.

(iii)証明. 帰納法でAの有限生成イデアルが2つの元で生成される場合を考えれば十分である.
主張: (x,y)=(x+y+xy)
(x,y)\subset (x+y+xy)はイデアルの定義から明らかである.
g(a)=a(x+y+xy)\ (a\in A)とおけば,

    \[\begin{cases} g(x)=x \\ g(y)=y \end{cases}\]

により, 生成元の間のA線形写像を与える.

具体例からboolean ringのイデアルの形を見てみる. 集合Aの巾集合系をXとおいて, Xにおける積(\wedge)と和(\vee)を

    \[\begin{cases} U\vee V =& U\ominus V = (U\cap V^c)\cup (U^c \cap V) \\ U\wedge V =& U\cap V \end{cases}\]

と定義すると, これはX=1,\ \emptyset=0とするboolean ringになる.
実際A=\{a,b,c\},\ 2^A=Xとして,

\emptyset\vee u=X\wedge=u\ (\forall u\in X)と演算の可換性(u\vee v=v\vee u,\ u\wedge v=v\wedge u)および結合律等からXが可換環の構造を持つことが分かる.
2u=u\vee u=\emptyset,\ u^2=u\wedge u=uからこれがboolean ringの構造を持つことも分かる.

よってXはこの演算でboolean ringを成す. 今イデアルIをX上\{a,b\}で生成されるイデアルとする.

\{a,b\}X=\{\{a\},\{b\},\{c\},\{a,b\},\{b,c\},\{a,c\},A,\emptyset\}の元との積を考えれば,

    \[I=(\{a,b\})=\{a,b,\{a,b\}\}\]

となる. このとき剰余環X/I\overline{c}\overline{\emptyset}の2元からなる(これらはそれぞれ「cを含むAの部分集合の族の成す類」,「cを含まないAの部分集合の族の成す類」として特徴付けられる).

またこの積(\wedge)において, 任意のu\in Xに対しuを含むXの任意の元v\supset uu=u\wedge v\wedge uを満たすので, von neumann regular ringでもある.

スペクトルのZariski位相性質について

環Aの任意のイデアルをIとし,

    \[V(I)=\{p\in Spec(A):p\supset I\}\]

がSpec(A)上Iの閉近傍を定めることを見る.

命題. V(I)\cup V(I')=V(I\cap I')
証明. x\in V(I)\backslash V(I')はIを含むある素イデアルであるから, Iより小さいイデアルI\cap I'を含む素イデアル全体に含まれる. I’についても同様だから\subsetは正しい.
J\in V(I\cap I')がV(I)に入らないとしよう. この場合JはIを含まないが, もしI’も含まないとすれば, 素イデアルの定義からII'\nsubseteq J. これはJの定義に矛盾する.

命題. V(I\cap I')=V(II')
証明. イデアルの定義からII'\subset I\cap I'. 故にV(II')\supset V(I\cap I')は明らか. J\in V(II'),\ J\notin V(I),\ J\notin V(I')とする. このとき上と同様Jの素イデアルの性質からII'\nsubseteq JだがJ\in V(II')に矛盾.

命題. \displaystyle{\cap_\lambda V(I_\lambda)=V(\sum_\lambda I_\lambda)}
証明. 左辺はI_\lambdaという全てのイデアル(非可算個の場合もある)を含む素イデアル全体で, V(\sum_\lambda I_\lambda)と等しい. イデアルJがイデアルIを含むことと, J=I+I’ (I’もあるイデアル)と表せることが同値であることを言えば良い.
任意のイデアルが0\in I'だからJ=I+I'ならJはIを含む. I=Jなら問題とならないので, I\subsetneq Jを仮定する. x\in J\backslash Iで生成されるイデアルをI'=Rx, x'\in J\backslash (I+I')で生成されるイデアルをI''=Rx'とかく.
このようにして得られるイデアルの増大列I+I'+I''+\ldotsは一般にはJを生成しないが, Jがネター環ならIを除く有限個のイデアルの列の和I'+I''+\ldots+ I^*を改めてI’と書くことで上の表示を得る. Jがネター的でない場合は, Jそのものでなく, Jに含まれる有限生成部分環をとることでそのような(ものに近しい)表示を得る.

以上で\mathfrak{F}=\{V(I):I\ is\ ideal\}は有限和, 任意個の交わりに閉じており, V(A)=\emptyset,\ V(0)=Spec(A)であるから(Spec(A),\mathfrak{F})\mathfrak{F}を閉集合系とする位相空間を成す.

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