リモートワークの導入リスクについて

先日ニュース記事で, 20代と30代でリモートワークに対する感じ方が違うということを取り扱ってるのを見た[1]これより以下特に断りが無い限り, リモートワークが適用可能な業種 — 医療や物流等のエッセンシャルワーカーを除いた業種 — … Continue reading.

調査によると、全体的に30代以上では、テレワーカーの方が出社者より幸せ指標は良好だが、20代では、幸せ指標の因子である「チームワーク」や「他者貢献因子」が低く、不幸せ指標の因子である「自己抑圧因子」や「疎外感」が高いことが分かったということです。

20代のテレワークに落とし穴
~若手には特別な配慮と対策必要~

ここで気になったのは, 不幸せ指標の因子として挙げられている自己抑圧因子とはなんぞやという話で, この記事の著者である海原純子氏[2]医学博士. 社会×医療をテーマにした複数の著書があるそうだ.も, 手がかりとして自分なんてというキーワードを一言付けているが, これだけ見ると抑圧よりも評価に思えるし, 自己抑圧因子で検索してもヒットしない.

仕方がないので原文の方に当たってみると, 次のような表を見つけた:

これを見れば, 労働環境における自己抑圧因子というのは, 心理学的な抑圧である「欲求を無意識下に置く自我防衛」ではなく, (資料にあるように) 能⼒不安のことだと分かる.

ではなぜテレワーカー — 特に若年層 — の方がそうでない属性の人と比較して自己抑圧因子が高くなったのだろう.

そもそも我々は, どのように能力不安を克服し, 自分の仕事に自信と呼べるものを獲得しているのか.

年齢層による差異

まず思うところで言うと, 自己評価を他者に委ねる傾向 (この性質に名前があったら教えてください) に, 20代までと30代以降で差が出るのだと思われる.

労働環境での自己評価は, 通俗的な自己評価と異なる. つまり, 専門性やコミュニティ内固有の評価基準が影響している.
これにより, 業界やコミュニティを渡って経験を積んだ年齢層の高い人は, この掴みどころのない基準から (周囲と大きくずれない程度には) 自身の客観評価ができると想像される.

経験を積んだ分, 一般に能力も高いので自己評価は低くなりにくいこととも相互補完関係にあるのだろう.

リモートと通勤の差異

推測の域を出ないが, 仕事をする当事者の能力不安の増減に関わることとして, リモートと現場では表現の幅, もう少しざっくり言えば, コミュニケーションの難易度で差が出るのだろうと思う.
補足として, あくまでコミュニケーションの手数や質ではなく, 難易度の差であろうということ.

能力不安は受託者側の話であるが, コミュニケーション難易度の問題そのものは双方向に存在しているはずである.

すなわち受託側からは, 広義の能力 — 仕事の遂行に関わるものとは限らず, お笑いのセンスや柔和な性格等でも構わない — を発揮するにはリモートワークは十分な環境とは言えず, 人によっては持ち味が殆ど活かせずに空回りしているような感覚を覚えるかも知れない.

一方事業者側からすれば, 伝えるべきことを適切に言語化し, タイミング良く共有する体制 — 勿論事業者側に負担が大きすぎないような — が整っていない状況では, 仕事を正しく遂行してもらいそれを評価すること自体が難しい. この体制を整えるハードルは, その事業者の属性や業種に依存して上下あると思うが, 環境を整えられないのであればリモートワークを取り入れない判断は当然検討する必要がある.

まとめると, コミュニケーションは仕事の遂行に直接関わる指示や評価, 報連相だけでなく, 叱咤激励や笑いの共有等, そのバリエーションは多様であり, 「なぜ仕事をするのか」に遡ればいずれも無視できるものではない. この点で, リモートワークが上手くいくためには, 双方の持ち味を生かす環境整備と工夫は当然のことながら, コミュニケーション難易度に対する認知そのものも相互に必要であろうと思われる.


リモートワークに付随する事業者が負うリスク

私は個人事業主として, 仕事をリモートで受けているし, リモートで仕事を依頼している.

両方の立場から言って, 多くの事業者がリモートワーク (特にそれを前提とする契約) の導入に二の足を踏むのはある程度理解していると思ってるが, リモートワークを許容しない理由は様々だし, 本質的にリモートワークがそぐわない業種があるのだからその是非を問おうとは思わない.

一般に, 事業者は何らかの事業を運営している以上, リモートワークに限らず常に経営リスクに曝されている. それが嫌であれば事業そのものをしていないだろうから, 一般的なリスクについては目を瞑っていると仮定して, リモートワークに掛るリスクで看過できない可能性のあるものを挙げてみよう:

  1. 不当利得・不当損失の関知と対処に掛るリスク,
  2. 受託者の影響による社内規範の乱れ (内部統制の難易度が上がる),
  3. 応答リスク,
  4. セキュリティリスク,
  5. 受託者を (物理的・精神的に) 緊密にすることによる利益の放棄,
  6. コストに掛るリスク,
  7. コミュニティとしての文化・風習・信念に掛るリスク

以下それぞれのリスクについて詳細に見ていく. 対処法は幾つもあるが, 何れもすぐに思いつくようなものなので敢えて書かない.

1. 不当利得・不当損失の関知と対処に掛るリスク

従業員のサボり自体は通勤時にも起こるが, リモートワークではその関知/対処ができないか, 遅れることによる労働損失リスクが高くなる.

2. 受託者の影響による社内規範の乱れ (内部統制の難易度が上がる)

報酬や契約形態, 労働条件が他の従業員と異なることによる, 従業員の不満への対処が必要なケースがある.

3. 応答リスク

通勤でも同様だが, 連絡したからといって従業員が直ぐに応答できない場合がある. リモートワークでは, 受託者が直ぐに応答できない状況を, 事業者が把握するのが難しい場合がある.

4. セキュリティリスク

インターネットの普及[3]総務省(令和元年通信利用動向調査)によると, 2019年時点で13~69歳で個人利用が90%を超えるとされる.と国民総メディア化に伴い, 現代日本においてデータ漏洩による社会的・経済的ダメージは大きい. データ通信方式やネットワーク環境を受託者に委ねる場合はリスクになる.

5. 受託者を (物理的・精神的に) 緊密にする利益の放棄

受託者も人間である以上, 近くにいる相手に親しみを覚えるのは当然であるから, 通勤していれば, 望まずとも事業に対する連帯感や忠誠心を感じる機会が (事業者が適切な運営をしていれば) 増えることが見込まれる.

リモートワークではこれらの機会については放棄することになる.

6. コストに掛るリスク

事務コストとして, 契約形態に応じて労働時間や免責事項, コアタイムといった労働条件が複雑化し, 基本的に個別対応が求められるケースがある.

インフラコストとして, セキュリティ確保, データ展開方式の策定やインフラの整備を事業者が受け持つ場合はコストになる.

7. コミュニティとしての文化・風習・信念に掛るリスク

リモートワークを導入する会社では, それまでの事業所の文化, 社訓や社是から逸脱する判断が必要なケースがしばしばある. 例えば年に一回の従業員全員参加の会合を諦めなくてはいけないこともあるだろう. 何を文化・風習とするかは事業者に委ねられている以上, リモートワークの導入を進めることで廃れる文化・風習もある.


リモートワーク向き人材

これまでリモートワークのネガティブな要素ばかりを議論してきたが, 当然マイナスばかりではない.

私個人としては (国の意向と同じく) 働き方の一つとしてリモートワークが選択できる業種や事業所が増えれば良いと思うので, まずは負の要素を出し切っておくのが先決と思われた. 負の要素を無効化, または小さくする対策についてはそれぞれで考えてみて欲しい.

リモートワーク導入のメリットはむしろ多方で語られているのでそちらに委ね, ここでは外角から眺めた時, ある人がリモートワークをしてもパフォーマンスを落とさないか, むしろ (広義の) 能力が発揮される可能性が高い条件として何があるか, を書いてみよう.

これは完全に個人的な見解なのでお話程度に読んで貰えればと思うが, 次の二つがまず思いつく.

  1. SNSやホームページで, 発信・自己表現を積極的にしている,
  2. 文章でのコミュニケーションが優れている,

SNSやホームページで, 発信・自己表現を積極的にしている

ここでの (広義の) 能力とは何らかの情報を扱う能力ということになるが, それなりの量のメディアコンテンツを発信・配信している受託者の場合, 上記における表現の幅のハードルを低く見積もれる上, 前に挙げた「事業者が負うリスク因子」の1, 3, 5を潜在的に回避できる見込みがある.

1については, 社会貢献の一環として, 受託者が発信するコンテンツの鑑賞者の一人として, 「労働損失」という概念そのものを解釈し直せる余地がある[4]ここで不当という用語は強すぎるので, 期待した業務遂行上の成果が出なかったとしてもという注釈を入れておく. … Continue reading.

3については, SNSやホームページを受託者の所在を担保する住所のようなものと捉えれば, 応答リスクの問題は部分的に解決されるかも知れない.

5は, 仮にメディア (文章, 画像, 音楽, 映像等) でその人の人格[5]社会における人格も, 私的な人格も両方含む.またはその一部を表現し, また形成しているに足りる個人をメディア人と呼ぶことにすると, 奇妙なことに, 人格がメディアに投影されるメディア人は, 物理的に遠くても近くに感じることができると思える. この仮説では, 精神的な緊密性は物理距離に必ずしも比例しない.

文章でのコミュニケーションが優れている

リモートでの表現の幅の壁を超える素養も, 上記で定義したメディア人たる所以も, その表現の質を前提としていると思える.

勿論ここでの表現は文字による表現に限定されるものではないが, リモートワークを導入する殆どの事例において, 表現の基本になることは認めざるを得ないのではないだろうか.

この立場では, 各々然るべき意味において優れた文を書く人材は, SNSやホームページで, 発信・自己表現を積極的にしていると同様, 「事業者が負うリスク因子」1, 3, 5に加え, 6も一部回避が期待できる.

というのは, 事務・経理・法務にかかるコストの一部は受託者の文章力[6]付随する論理的思考, 文章理解力も含む.である程度軽減されるケースを実際に何件か見かけている.


最後に文章力とは少し逸れるかも知れないが, リモートワーカーとして外部から組織と関わって働く場合, その組織での納得感が如何に内部規範に影響してくるか考えさせられる.

その中で平等であることは不可能だから, 「平等性より公平性」の原則に従い, よく表現された条件と規範をいつも考えなくてはと思う.

Footnotes

Footnotes
1 これより以下特に断りが無い限り, リモートワークが適用可能な業種 — 医療や物流等のエッセンシャルワーカーを除いた業種 — に限定して話を進める.
2 医学博士. 社会×医療をテーマにした複数の著書があるそうだ.
3 総務省(令和元年通信利用動向調査)によると, 2019年時点で13~69歳で個人利用が90%を超えるとされる.
4 ここで不当という用語は強すぎるので, 期待した業務遂行上の成果が出なかったとしてもという注釈を入れておく. 遂行業務に対する報酬が不当かどうかという話は, 結局当事者間の示し合わせ次第になる.
5 社会における人格も, 私的な人格も両方含む.
6 付随する論理的思考, 文章理解力も含む.
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